仮想化とクラウド、これまでの動向と今後

最近また、クラウドについて説明する機会が増えてきたように感じます。せっかくですので、仮想化やクラウドについて、IT部門の方以外でもわかるように、これまでの発展の経緯などをまとめてみました。

■ 黎明期: サーバーの分割を目的とした、単純な仮想化の時代

この時代は、サーバー仮想化の黎明期で、もっぱらサーバーを分割して使うことが目的とされていました。数年前からコンピューター技術の発展によって、サーバーの処理能力が有り余るようになり、一つのサーバーを複数に分割して使えないか?ということが真剣に検討されるようになりました。その解の一つがサーバーの仮想化だったというわけです。

この時代の仮想化は、一つのサーバーを複数に分割する、いわば1対Nの関係でした。

この技術は特にITリテラシーの高い企業において、あまりクオリティを期待しない社内用のサーバーを置き換える技術として普及が進みました。その後、この技術を用いた商用サービスとしてVPS(バーチャルプライベートサーバー)というレンタルサーバーサービスなどが普及しました。例えるなら、一戸建ての賃貸が、マンションの賃貸に発展した、という状況です。

 

■ 現在: 分散コンピューティング技術を加えた、クラウドの時代

現在クラウドと呼ばれている技術は、サーバーの仮想化技術をさらに発展させたものです。

従来は一台のサーバーを単純にサーバーを分割するだけ、すなわち1対Nの関係であったという事は前述の通りですが、クラウドの時代はそれをN:Nの関係で提供するようになりました。すなわち2台のサーバーを3台分に分割する、4台のサーバーを7台分に分割するといった関係です。

この技術のどこが凄いのかというと、一台の物理的なサーバーが故障したとしても、仮想的なサーバーはサービスを継続できるという点です。

クラウドの簡単図

 例えば3台の物理的なサーバーを、5台の仮想的なサーバーに分割していたとします。このとき、もし一台のサーバーが故障したとして、以下のように他のサーバーがその故障をカバーしてくれるのです(理想的通り動けば、ですけど)

この事によって、まずサービスのクオリティが向上します。サーバーは消耗品ですから、当然故障なども起こるわけですが、このクラウド方式なら一台のサーバーが壊れたくらいではどうと言うこともなくサービスを継続できるわけです。

さらに、この方式であれば、処理能力に余裕さえあればいつでも仮想的なサーバーを追加することが出来る上、その処理能力の分割も自由自在です。10台のサーバーを100台に分割してもいいですし、20台に分割してもいいのです。処理能力が大きく必要な場合は、分割数を減らしてより大きな処理能力を割り当てたり、その逆にたいした処理能力が必要のない用途には分割数を増やして数を稼いでコストをさらに落とすことも出来ます。

そしてそれが、いつでも可能であるという点にもクラウドの特徴があります。

今までサーバーを準備するには、見積もりをとってメーカーに発注して、それが一ヶ月後に届いてそこからエンジニアが設定をして・・・・、というのが普通でした。ところが、クラウドではクラウドを提供する側の物理サーバーに十分な余裕がある限り、いつでも蛇口をひねるように、仮想的なサーバーをいつでも準備したり、あるいは処理能力を増やすことが出来るようになったのです。

実際、クラウドと呼ばれるサービスでは、申し込んだら即サーバーを使うことが出来、しかも処理能力が不足したらいつでも処理能力を追加することが出来ます。こうしたハードウェアの高度な仮想化の事をIT業界では専門用語で『HaaS(hardware as a service. サービスとしてのハードウェア』と呼んでいます。

ポイント: 単なる仮想化とクラウドの違いは、ハードウェアをより意識させずに調達や修理を可能にしている点にある。これを専門用語でHaaSという。

 

■ クラウド提供の代表企業Amazonのビジネスモデルとは?

さて、クラウドのメリットは上述の通りですが、このメリットを活かすためには絶対に必要な事が一つあります。それは『常に余分な処理能力を確保しておくこと』すなわち、あらかじめ余裕を持ってサーバーを購入しておくことです。

クラウドでは、物理的なサーバーが故障した場合、その故障した分の処理を他の物理サーバーが引き受けます。そのとき他のサーバーの処理能力にあまりがなければ、結局処理能力が足りずにサービスが凄く遅くなったり、あるいは提供できなくなったりしてしまいます。

また、新たに仮想サーバーを追加する場合も、処理能力に余裕のある分を活用して追加するわけですので、処理能力に余裕がなければ「いつでもサーバー追加、いつでも処理能力割り当て増加」というメリットが生かせなくなってしまいます。そのため、余分のサーバーを常に準備しておくわけです。

ところが、このように余分なサーバーを準備するということは、規模の小さい環境ではむしろコストがかかってしまいます。従って、クラウドのメリットを享受できるのは「余分の処理能力をなんて誤差の範囲さ!」といえるような大量のサーバーを有している企業に限られてきます。それは100台と200台とかの次元ではなく、100台のレベル。その代表例がGoogleやAmazonというわけです。

Amazonは自社の通信販売サービスを100%維持するために、常に大量のサーバーを維持し、しかも余分の処理能力も確保しています。そこでAmazonは「余分な処理能力を、自社サービスに影響のない範囲で、少しずつ切り売りしてはどうか?」などというサイドビジネスを考案しました。これが現在クラウドと呼ばれているサービスの初期の形であり、現在実用的なクラウドサービスを提供出来ているのはAmazonだけです。

私もこれまで複数のクラウドサービスを評価する機会に恵まれましたが、残念ながらAmazon以外にはビジネス実用レベルに達している企業はありません。国内でも一部を除けば、クラウドと称するVPSサービス、すなわち黎明期の仮想化技術に過ぎないものに、クラウドという流行語をつけているという悪質な例も目立ちます。

 

■ 本格的クラウド時代への過渡期をカバーする『プライベートクラウド』

以上がクラウドのサービスの正体であり、極端に言ってしまえばレンタルサーバーやASPの発展系といってもいいかもしれません。サーバー維持のアウトソーシングの一種です。

ところが、企業によってはそもそも「アウトソーシング禁止!」という分野もまだまだ多いのです。その代表例が個人情報を扱う分野であったり、あるいは金融機関であったりといったものです。

社内規定で「個人情報を扱うサーバーは自社で構築し自社のデータセンターに配置しなければならない」などと決まっている大企業は少なくありません。

また、金融機関では監査が大きな問題になります。金融機関は定期的にシステム監査を行うことが金融庁の指導によって実質的に義務づけられています。ところが現在のシステム監査のやり方は、物理的にサーバーを購入して管理していることが前提となっており、クラウドのような仮想的なサーバーを利用している場合は、有効に監査が行えないことすらあるのです。

冷静に考えれば「個人情報を扱うサーバーは自社で構築し自社のデータセンターに配置しなければならない」などというルールも、大変微妙な話で、例えば「タンス預金が一番安全!」などと言っているのと変わらないと思います。現在のITの機密情報の取り扱いは「自分の手元に置いておけば安心」という感情論に基づいており、皆がタンス預金をしていた昭和レベルの概念とすらいっていいでしょう。これらの感情の問題だけなら、時間が解決してくれるかもしれません。

しかし、監査スキームを確立できないという問題はきわめて具体的であり、社内ルールを変えるだけでは対応することは出来ません。そしてクラウド技術に対してもっとも興味を持っているのは金融機関であるということを考えれば、これは極めて大きな問題です。

「弊社ではクラウド時代のシステム監査へのソリューションをもっておりますので是非ご相談を――」と宣伝したいところは山々なのですが、お金にさえ目をつけなければもっと手っ取り早くその問題を解決できる方法がありますので、今回はそれをご紹介しましょう。それを提案しているのがIBMです。

IBMは汎用機という超バカでかいコンピューターのお化けを売っていることで有名です。IBMの提案は「企業は高性能な汎用機を一台購入して、企業はそれを分割して使えばいい」というものなのです。

汎用機という一台のサーバーを分割するだけですので「それじゃ黎明期の仮想化(VPS)と変わらないじゃないか!」という指摘はもっともなところです。しかし汎用機はそれ一台で普通の数十台分以上処理能力を発揮し、しかも部品の一部が故障しても電源を投入したまま(サービスを停止せず)修理が出来ます。

汎用機は数千万から数億円という価格のサーバーですので、コストダウンには到底結びつきませんが、クラウドの持つ他のメリット「サーバーが故障してもサービスを維持できる」「いつでも仮想的なサーバーを増やせる。用途に応じて処理能力の割り当てを変えることが出来る」といった管理面の利便性は享受できます。

すなわち金に糸目をつけずにクラウドの管理面のメリットだけを享受しようというのがIBMの提案するクラウドです。IBMのクラウドでは専用の汎用機を企業が購入して占有することから、特に『プライベートクラウド』と呼ばれています。これに対してアマゾンのような完全なアウトソーシング型のクラウドは『パブリッククラウド』と呼ばれ、区別しています。

 

■ 当面はプライベートクラウドの市場が拡大する

最終的には、企業の機密情報もAmazonが提供するようなパブリッククラウド型のアウトソーシングサービスに移行していくとの予測が広く支持されています。

ただ、IBMの提案するようなプライベートクラウドという市場がどこまで拡大するかについては議論が分かれているようです。

私としては、経営者の感情的な抵抗感や、何より監査スキームの不備などの問題の解決は簡単でないと考えています。またそうした傾向は日本で特に顕著になるため、パブリッククラウドの市場が立ち上がると私は予想しています。

私のようなベンチャービジネスに携わる人間としては当然その先のパブリッククラウド時代を見据えた動きをとっています。しかし現実の市場としてはプライベートクラウドの構築ビジネスの枠が大きく、既存の中堅以上のIT企業(SIerなど)の主力ビジネスとなると考えるべきでしょう。

導入する企業の側としても、パブリッククラウドの利用を進めるためには経営層の十分な理解と支援が必要となりますから、特に大企業では一足飛びにパブリッククラウドにたどり着くよりもプライベートクラウドの段階を挟む方が現実的です。

景気が底を打ち、これからITの予算の拡大も見込まれる今、大企業などは素直にプライベートクラウドから取り組むべきかもしれません。一方で中小企業では既にパブリッククラウドの利用が進んでいる企業も少なくなく、予算も大企業ほど潤沢ではないため、ある程度のリスクをとってもパブリッククラウドの導入を進めていく必要がありそうです。

上記の通りの動きが起こるなら、金額ベースの市場規模では間違いなく、プライベートクラウドの方が市場規模が大きくなります。また、IT資産の投資サイクルは今でも5年で設計されています。大企業がプライベートクラウドのステップを挟むと仮定すれば、本格的なクラウド時代に至るまでには5~10年程度を要すると考えるのが無難でしょう。

もちろん、サービスを提供する側のIT企業はそんなのをまってビジネスをしていては到底間に合わず、先んじて今から準備を行っておく必要があります。そして私のようなベンチャービジネスに携わるIT屋はSIerと決戦などしても到底勝てませんから、むしろパブリッククラウドの時代を見据えて動くべきだと考えています。

カテゴリー: IT

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