三菱UFJ証券の危機管理は合格点。参考にすべき点も

[詳報]業績に大きな打撃、補償には適切に対応—三菱UFJ証券の秋草社長が会見【IT Pro】

三菱UFJ証券システム部の部長代理だった元社員(2009年4月8日付で懲戒解雇処分)が顧客情報約148万人分を不正に取得し約5万人分の情報を売却した事件(関連記事1、関連記事2)で、同社は2009年4月17日に記者会見を開き秋草史幸取締役社長が陳謝し、前田孝治常務取締役とともに状況を説明した(写真)。会見での主なやり取りは以下の通り。

受け答えを呼んで全体に感じるのは、よく訓練されているという点。おそらく三菱UFJ証券はこのような事態にあらかじめ備えたコンティンジェンシープランを用意しおり、今回もそのプランどおりに行動していると思われる。

危機管理としては合格点を上回っており、参考にすべき多い。いくつか例を挙げると

 

業績については大変大きな打撃を受けることは間違いない。

事態を重く受け止めているというメッセージとなる。バックグラウンドにはもちろん心理学的なものがあるわけだが、そんな理屈を持ち出さなくても分かりきったことではある。ところが、現実に危機に直面すると、往々にして逆のメッセージを発信してしまうことが普通だ。もっとも、業績の悪化についてはアピールでもなんでもなく、事実ではあるのだが。

危機管理の最高のお手本といわれるジャパネットたかたの個人情報流出事件でも、営業自粛を含めて「深刻に受け止めている」というメッセージを先んじて配信したことが大きかった。ジャパネットたかたの場合は危機を通じてむしろブランド価値が高まったとすら評価されているが、今回の三菱UFJ証券の例では、まぁさすがにそのレベルを求めるのは無理そうだ。

 

  頻繁な電話で中にはノイローゼになった顧客もいる

 これも、事態を重く受け止めているというメッセージとなることに加え、誠実に情報を公表しているという印象を与える。
また、事例の中ではおそらく最悪のものを先に持ち出すことで、マスコミ対策にもなる。もし、中途半端な被害事例を持ち出したら、マスコミはより酷い被害事例を探し出そうとして取材に躍起になるだろう。そのような場合は、特に質の悪いマスコミが動くことが多く、往々にして事実も歪曲される。

 

 顧客情報を流出された5万人への補償は。

秋草 精神的な負担も含めいろんな意味でご負担をかけていることを考慮した上で適切な対応をしたい。頭を下げれば済むという問題ではない。補償の総額については、被害の度合いが違うので、調査をした上で適切な対応をすべきだと考えている。

補償できるなら、それにこしたことはない。ただまぁ、これは証券会社というカネを持っている業種だからこそ出来ることであって、普通の業種であれば困難だろう。

補償してもどこかの通信会社のように「一律500円」はマズい。これは額の問題ではなく「一律」かつ「額が公表されている」のがまずいのである。このような事例では結局、500円という金額が一人歩きして逆効果になる。三菱UFJ証券が補償の総額を明らかにせず、同時に補償額も個別に異なると言うのは、そうした背景もあるということだ。

なお、ジャパネットたかたの場合は、補償するとはいわなかったが、危機管理の最良事例であるといわれている。補償はするに越したことはないかもしれないが、補償するといわなくても納得してもらえる道はあるということだ。

 

関係者の処分や経営責任については。
秋草 まずは事実の解明が先だと思う。原因を徹底的に追究して、対応策を含めて検討する中で関係者の処分も考える。

これは議論の分かれるところ。ただ、最終的には当然何らかの処分が下るのは間違いなく、要はタイミングの問題。もちろん、自らの進退も含めての話だ。

基本的には危機下において命令系統を混乱させるわけにもいかないので、危機発生中は現状体制を維持するというのも選択肢の一つだ。調査が終わらなければ量刑も決まらない。その上、銀行のような保守的かつ巨大なな組織では後継者を決めるだけで、社内の争いが起こる。

ただ、最終的には「残しておいた切り札」であり、遠からぬタイミングで切るべきカードではある。
ところで、今回の事件のこの受け答えを呼んで、またテキトーな批判をする人のなんと多いこと。被害者がいうなら分かるが「誠意がない」とかって、いったい何をどうしたらその「誠意」とやらは認められるものなのだろうか?その辺のヤクザじゃないんだからさ。

そういえばニュースでは「流出を許す仕組みの問題」とか偉そうなことを言っている人がいた。逆にどのような仕組みを整えれば、今回の問題が解決したというのだろうか?まだ詳細が分かっていない時点で「仕組みの問題」と言い切れる、その蛮勇ぶりに私もびっくり出ある。

私もSEの端くれだが、少なくとも今回のような上位権限者が関わるという事例で、流出を完全に食い止めることは極めて難しいと断言する。出来ることは以下の2点だ。

  • 犯人を特定できる仕組みを持っているか?
  • いかに早く流出に気づくか?

むしろ、マスコミあたりは三菱UFJ証券に学ばなければならない点が多々あると私は思うのだが、どうだろうか?

今回の例を非難することは容易なことだが、それだけではそれこそ他人事のニュースでオシマイだ。日々消化される話のネタくらいにしかならない。それよりはむしろ「弊社のいざというときの為の、参考にしよう」などという視線で見てみるほうが建設的ではないだろうか?

おそらく三菱UFJ証券も、そのようにして危機管理のための計画を事前に立てていたはずだ。

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。