100年に一度の危機の正体は、ITの暴走だったのかも知れない

7月米雇用者:25万人減、削減幅縮小-失業率9.4%に低下【ブルームバーグ】

失業率の低下は2008年4月以降初めて。

「100年に一度の危機」などと危機を煽っていた人たちは今何を思っているのだろうか。なお、このような回復傾向は年始から続いているが――。

  1. 小反発しているだけ。再度下落に転じる
  2. 銀行の業績が改善していない
  3. 景況感が回復していない
  4. 住宅価格が下げ止まっていない
  5. 雇用の回復は兆しも見えない

以上は、景気回復の兆候が出る度に並べられた言い訳の数々である。なお、上記は概ね言い訳の登場順に従っている。次はどんな言い訳を編み出すのか興味は尽きない。

――まぁ、真面目な話、上記は景気回復に当たって解決しなければならない課題のリストでもあるわけで指摘そのものは正しかった。正しくなかったのは、そのスピードや危機の規模だけだ。

結局、リーマンショックに端を発した危機は自由競争社会の欠陥とかいう壮大なものではなく、格付け会社や証券化商品、商品市場の規制の遅れといった極めて具体的な 問題であったといえるだろう。

従って我々は、これらの具体的な問題を、着実に、誠実に、確実に対処しさえすればいい。これまでの経済スキームに革命的な変更が必要だったりはしないわけだ。危機当時は日本を社会主義国家にでもしようが如き勢いで、何でも規制する風潮が生まれたが、今現在のこの現実を見てみれば何が正しかったのかが分かるはずだ。

そう、我々は、日本は、100%敗北した。危機発生当時、先進国中もっとも優位なポジションを持っていたにもかかわらず、だ。 危機発生後、力のない内閣は税金を無駄に使い、官僚主導の規制を増やし、経済活動をさらに後退に導いた。最近では海外勢ですら、政権の交代は日本株の買い材料であると考えるようになった。まぁ、今更犯人議論をしても仕方がない。それはも誰もが分かっていることであり、そして今日、数字で証明されたことだ。我々は世界の景気回復に劣後した、それが事実だ。

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むしろ問題にすべきは、無邪気に100年に1度の危機を煽っていた人々かも知れない。

昨年「早ければ今年の3Qに底打ち」などという観測をぶち上げた私だが、これは実は極めてありふれた予測で、景気循環に普通に従えば本年の3Q頃には景気回復に転じると言われていた。つまり結果だけ見れば、騒ぎ立てるだけ騒いだが、結局通常の景気循環通りのごくありふれた不況に過ぎなかったと言うことだ。彼らが危機をあおり立てさえしなければ――。

金融機関が善良に活動する日本では知られていないことだが、市場にはポジショントークというものがある。

ポジショントークとは自分が有利になるように相場を煽る情報を流布することだ。やり方は極めて簡単で、例えば株を空売りしてから(株が値下がりすると儲かる取引)、「これは100年に一度の危機だ!」と叫べばいい。

あとは昔なら通信社などがそのコメントを報道するわけだが、今はさらにネットがある。これらのコメントはネットを通じて尾ひれが付いた状態で拡大していく。特に経済のシロウト(私のようなw)がまるでプロでもあるかの如きトーンでもって情報を再発信するから始末が悪い。私も人のことは言えないかも知れないが、ポジショントークを何の解釈もなく再発信して危機を煽るようなことは、社会人として恥ずべき事であり、猛省すべきだろう。

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もちろん、危機の理由はポジショントークだけではない。様々なリスク資産の取引がネットで行われ、世界中の市場の値動きが瞬時に世界に共有されるようになったことも事態を悪化させた。これが全てのリスク資産が一斉に下落した原因の一つだ。

近年のトレーダーは目前のモニタに、原油価格や為替相場や株式相場や・・・、といった様々な相場のリアルタイム情報を並べて取引をしている。かくいう私もトレード時は常に6つの市場のリアルタイムチャートを見ながら取引をしている。シロウトの私でさえもがそれなのだから、プロにあっては推して知るべしだろう。

例えば、原油価格が下がったのを見て、株を売ったものがいたとしよう。すると株が下がったのをみた別のトレーダーは今度は高金利通貨(オーストラリアドルなど)を売る。オーストラリアドル売られると、それにつられてドル円相場が下落するため別のトレーダーはドル円を売る。するとそれを見た別のトレーダーが今度はユーロを対ドルで売ろうとする。この結果ユーロの価値は下落するが、ユーロの価格は実は原油相場と相関性が高く・・・・・。

以上を資産の下落のエンドレスループとでも名付けようか。
ちなみに、プロのトレーダーには相場の下落局面で利益を上げることを得意とする人が多いことも書き加えておこう。彼らにとっては相場の下落は恐るべきものではなく、他のトレーダーと一緒になって作り上げるフィーバーのようなものだ。チャートという共通の舞台を通じて、お祭りに興じている。

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こうして振り返れば振り返るほど、昨年末からの狂乱がバカバカしいものに思えてくる。いったい我々は何をしていたのだろう?単に「ネットを通じてバカ騒ぎをしていました」というだけが真実であればこれほどバカバカしい話もない。

ただ言い訳をするなら――、今の回復が断固たる対策の結果であることも忘れてはならない。震源地米国ではバーナンキが豪腕を持って大統領後退期の空白をしのぎ、その後はオバマ大統領がリーダーシップを発揮したことで消費者意識が改善し、現在の回復に至った。本当に無策なままであったら、今頃はもっと酷い事態に陥っていたかも知れない。リーマン・ショック以降の危機において、優れたリーダーを得られた米国は幸運だった。

そういう意味では、むしろ日本こそが本当に凄い国なのかもしれない。

支持率の低くい内閣はリーダーシップを発揮することは出来ず、日銀もまた不安定な政治に備えて常に切り札を温存する後手策を強いられた。結果としては本当に厳しいときには対策を打たず、ようやく対策が実行された頃には景気は上向き始めていた。結果としては税金をばらまいただけだ。

一方、日本が一度の景気対策も出来ない間、オーストラリアでは2回の景気対策が行われた。それでも2回目については「遅い、間に合わない」という批判と隣り合わせだった。

日本と同じ事をその辺の発展途上国がやっていたら、間違いなく国家は破綻していただろう。ところが日本は破綻するどころか、日本はこの危機下にあって他国に金を貸し、あるいは海外企業を買収すらしている。そういう意味では日本国民の優秀さは尋常ではない。
そう――、ただただ、政治と官僚が無能すぎただけだ。

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